特別編 やってみようシリーズ第一回 「スジボってみよう」。

はい、皆さんご機嫌いかがですか。
今回は特別編。役立ちツールや基礎テクニックの紹介などをしていく「やってみようシリーズ」です。第一回は「スジぼってみよう」。基本的なテクニックでありながら、中々上達しない、筆者も試行錯誤を繰り返す分野であります。


まず、最初になぜスジボリが必要なのかについて、少し考えてみましょう。

プラスチックやレジン製のキットはパーツの成型上、パーツの抜き方向と直角に近い部分のエッジが出にくいという特徴があります。なのでスジボリによって元々あるモールドを引き立ててやろうというのがひとつ。また最近のキットではパーツの合わせ目が非常にきっちり決まってしまい、せっかくのパーツ分割ラインが目立たないことがあります。そんなときも接合ラインにスジボリを入れることによって「別部品である」という演出をすることができます。

スパイクアーマー部分のフチをスジボリ。上腕部はパーツの接合部にスジボリした例。


また、キットのままではすっきりしすぎていて寂しいよなぁ、というパーツに追加ディティールとしてパネルライン等を入れることもあります。

盾部分や脚部フェアリング、太もも等に「分割ライン」や「パネルライン」風のスジボリをした例。


じゃあスジボリをしないとどうなるかというとこんな風になります。

左側、グレーのガンダムはモールドの彫り直しのみ、右側はスジボリで若干のディティールを追加してあります。色が違うのでわかりにくいかもしれませんが、なんとなくリアリティがアップしたような気がする、という感じはわかっていただけると思います。この「感じがする」というのが重要で、見栄えの充実感アップの秘訣です。実際に考えたら、18mの物体が18cmに見える距離でパネルラインなんか見えるわけないんですから。お台場ガンダムゆりかもめ(東京臨海線という電車の名称ね)の中から見たときにパネルラインが見えるかっていったら、やっぱり見えない。まあ、よっぽど目がいい人なら別ですけど。
じゃあ、何でそんなものを入れるのかというと、頭の中に記憶された情報を演出として見せてやろうという方法論なんだと思います。0.1mmのスジボリが入っていたとして、1/100換算で実寸だったら10mm。実物にそんな隙間があったら不良品です。たぶん。1/43スケールのF1モデルなんかでも0.1mmのスジボリは実寸に換算して4mm以上。カウリングにそんなに大きい隙間はありません。でもあえてそういった情報を付加することで「ありそう」や「動きそう」といった雰囲気を出そうというテクニックなんです。頭の中にある「そんな感じ」を演出する手法なんですね。


まあ、能書きはこれくらいにして、実践とまいりましょう。

まず、スジボリに必要なツール。私もPカッターから始まりあらゆるツールを試してきましたが、これといった決定打が見つからず。いまだにコレでした。

もう20年近く使っているので先を研いでいるうちに3cmくらい短くなっちゃった。


ではいよいよ実践。まずはこいつから。


クシャトリヤのバインダー部分です。まずは軽〜く、フリーハンドでモールドの彫りなおしから。

あれ、あんまり変わって見えないな。じゃあこれだ。

サフを吹いてみました。奥がパーツのまま、手前がモールドを彫りなおしたもの。コレだけでも仕上がりに差が出ます。


彫っていると当然失敗もします。そんなときは落ち着いてプラパテで修正します。経験上、修正にはプラパテが一番です。


さて、お次は追加でスジボリを加えていきましょう。まずはどんな風にスジボリを追加するのか、実際にパーツに書き込んでみます。使うのは製図用のブルーの芯を入れたシャープペン。普通のシャープ芯より視認性が高いので愛用しています。

元からあるモールドとマッチングがいいように、それぞれのラインに何らかの意味が見出せるよう考えながら書き込んでいきます。


モールドを考える上でのちょっとしたアイディアですが、実際の構造物を考えた場合、接合面が直線のパーツ同士をつなぐと、外力が加わったときに横方向にずれる力が働きます。だから形を維持するためにたくさんのリベットやビスなどで繋がなければならない。

これを、より効率よくしようとすると、下のような形状になります。

これならば外力にも強いし、パーツ同士の収まりもいい。なので、長い直線のディティールを入れる場合は、間にこういったモールドを追加するようにしています。図版ほどオーバーではないので気づきにくいんですが、最近の自動車や航空機なんかもこの手法を取り入れて設計されていたりします。ちょっとご参考までに。


さて、アイディアが固まったら、片方の面だけを集中的にスジボリしていきます。両方いっぺんにやろうとすると、必ず左右が非対称になります。ここまできたら、後はもう彫る、彫る、彫るの繰り返し。ガイドテープが強い味方です。

どんなツールを使っても共通なスジボリのコツは「一度に彫ろうとしない」こと。適度な力で何回か同じところをなぞることによって、よりきれいなスジボリをすることができます。この時に、なぞる回数を決めることにより、スジボリの深さを調整することができます。


ガイドテープはこんな使い方も便利ですよ。例えばフチ部分の分割ライン表現。ガイドテープの3mmをこうして貼っておいて

左の上半分と右の意下半分に縦ラインを入れてから両方を斜めにつなげば

ほら、このとおり。3mm幅の多角形ラインの出来上がり。


片方ができたら反対側にもアタリを取ってスジボリを進めます。必ず、というわけではないのですが、私はアタリをとるときにもガイドテープを使ったりします。アタリとはいえ、きれいに直線が出たほうが仕上がりのイメージがつかみやすいので。

出来上がったほうをゲージにして、ノギス等を使って正確な位置を決めていくのも手ですが、

こんな裏業もあります。

出来上がったスジボリ面に透明プラバンを当ててアタリを取り、それを切り出してガイドを作る方法。これなら左右対称にもできますし、何個でも同じようにスジボリをすることができます。普通の0.3mmプラバンでもいいんですが、私は曲面への追従性の高さでエバーグリーンの0.13mm透明プラバンを使っています。クシャトリアのバインダーは4枚ありますから、面倒なように見えて、この方法が一番正確で手っ取り早いんです。


はい、そんなこんなで出来上がったスジボリ済みバインダー。NT専用機のNT部分(多分)ですから、普段より未来的な、というより怪しげな雰囲気が出るように考えました。

こんな角度で見ると、なんだか「使徒侵入」なカンジ。




さて、こんなテクニックを応用して、複雑に見えるディティールを簡単にスジボリする方法を紹介。
実験台はクシャトリヤの後スカートの裏側。勝手な想像ですが、ここにはプロペラントが収められているのではないかと思うので、そのようなディティールを入れていきます。

まずは左右対称のディティールを入れるため、片方だけガイドを作りスジボリします。

片方ができたらガイドをひっくり返して反対側へ両面テープで貼り付け。同じようにスジボリすると、ほら、左右対称のラインができました。

これだけではちと寂しいので二重ラインを作ります。アタリを取り、内側にスジボリをしていきます。

こんな感じになりました。はみだしや失敗した部分はプラパテで修正します。

出来上がったディティールの角に合わせて正確にマスメツールを貼り、面打ちで2mm間隔にアタリを打っていきます。写真右はアタリをとった後ペーパーがけし、スジボリに残ったカスをブラシで取り除いた状態です。スジボリ作業中は、何回も同じような作業を繰り返しながら仕上がり具合を確認します。
スジボリ後は必ずペーパーがけとブラシでミゾ掃除をするのをお忘れなく。曲面のペーパーがけはこれが便利ですよ。

アタリに合わせてガイドテープを貼り、ディティールの内側部分に直線のラインを入れていきます。

これを繰り返すとこんなディティールが出来上がります。マスメツール、ガイドテープのおかげで、殆んどストレスなく仕上げることができました。



じゃあついでに表側もやってみましょうか。ガイドテープを利用した超簡単スジボリ法。
まず、元からあるスリットに何度もスジボリを入れ、開口してしまいます。あせらずに何回もやっていると「あれっ」って感じで開口でき、デザインナイフなどで開けるよりきれいに仕上がります。

続いて元からあるパーツの角やディティールの端をガイド代わりにして、一気にガイドテープを貼ってしまいます。ガイドテープの幅が3mmですから、二重に張れば6mm。簡単に寸法が決められます。

後はスジボリを入れるだけ。簡単に多角形のスジボリが完成します。

実際には模型完成まで、こんな作業が延々と続きます。




といったところで今回はここまで。
「やってみようシリーズ」第一回、参考になりましたでしょうか? 次週も火曜日更新で、クシャトリヤの制作に本格的に取り掛かります。オリンピックに負けずがんばります。がんばれ日本とオレ。

ではそんなところで、次回も乞御期待。